広島市立大学平和研究所・平和学研究科のウェブ企画「Hello From HPI」では、授業内容や大学院生の研究テーマと成果、プロジェクトの進行や日々の現場を記事として掲載します。
今回は、国際法が専門の大下隼講師の担当する講義「国際組織と国際制度」を受講した本研究科修士課程1年の臼坂和昭さん、川畑友夏菜さんに、大下講師が1年間の学びや授業、フィールドワークの印象を伺いました。国際組織への理解や平和研究の魅力、悩み、そして未来の学生へのメッセージを紹介します(インタビュー日:2026年1月26日)。
※正式名称は修士課程ではなく、博士前期課程となります
1 修士1年の学び
2 大学院講義「国際組織と国際制度」
3 国際組織との出会い
4 大久野島フィールドワーク
5 平和研へのアイデア
6 未来の学生へのメッセージ

1 修士1年の学び
大下: 修士課程1年生の後期の授業期間が終わりましたね。お疲れさまでした。学生生活、楽しんでいますか?
川畑: とても楽しく過ごしています。大変なこともたくさんあるけど(笑)、大学の学部生のころから研究したかった「被爆の記憶」について、いろいろな分野の先生方からさまざまな視点で知識や考え方を学び、一緒に考えることができて、平和学研究科に入ってよかったと率直に思っています。先輩たちとのつながりもとても大切で、経験を共有してもらったり相談に乗ってもらったりと、本当にいい環境です。先生たちも先輩たちもみんなフレンドリーですね。
臼坂: 私も楽しく学ばせてもらっています。社会人として働く中で残りの人生を考えるようになり、自分が本当にやりたい研究に挑戦したいと思い、早期退職をして平和学研究科の門を叩きましたが、確かな手応えを感じています。ひとつひとつの授業も面白いですし、社会学や法学、歴史学といった分野を横断して平和に取り組めるのはありがたいですし、ここでしか経験できない学びだと思っています。しかも少人数で各分野のスペシャリストの先生方や大学院生たちと議論できるのは、とても楽しく、贅沢な環境だと感じています。

川畑: 各分野のスペシャリストの先生たちの後ろ姿はとてもかっこよくて、たまに泣きそうになっちゃいます(笑)。
大下: それはぜひ先生方に伝えておきましょう(笑)。臼坂さんが言われたように、平和学の魅力は学際性にもあります。平和学を英語にすると Peace Studies で複数形となるのは様々な分野の集合であることを示しています。ただし、それは同時に難しさでもあります。現代社会において学際性は武器になる一方、学び方を誤るとどの分野も中途半端な「根無し草」になる危険もあります。学際性と学問としての一体性(integrity)のバランスをどうとるかなど、平和学の発展は広島平和研究所の課題でもあると個人的には思っています。この1年間の学際的な学びがお二人の修士論文にどのようにつながるのか、とても楽しみにしています。
2 大学院講義「国際組織と国際制度」
大下: 次に、「国際組織と国際制度」の授業について伺いたいと思います。この授業では、国際組織法の基本的な発想である「機能主義」に「組織過程」を加えた2つの観点から、国際組織や国際制度を分析する方法論をお伝えしました。そのうえで、みなさん自身が関心のある国際組織や事項について分析してもらいましたが、どのような学びが得られましたか。

臼坂: 先生が教えてくださった分析方法を使うと、確かに少し違った、しかもより現実的なものの見方ができるようになり、とても勉強になりました。特に、国際組織の規模が思っていたよりもかなり小さいことに驚きました。例えば国際原子力機関(IAEA)は広島市の10分の1くらいの規模しかなく、世界中の原子力活動を厳重に監視するには、加盟国がもっと予算を拠出しないと実現できない、という現実も理解できました。
川畑: 私は化学兵器の問題に焦点を当ててきたのですが、化学兵器禁止機関(OPCW)という国際組織の活動や、ハーグ毒ガス宣言などの国際条約の存在すら知らなかったので、すごく刺激になりました。また、中国北部に旧日本軍が遺棄した化学兵器が今も残っていて、現地で被害が出続けているということを知ったのは、原爆の記憶を考えるうえで、日本の戦争責任や加害と被害の問題を深く考えるきっかけになりました。
大下: お二人は国際関係が専門ではないこともあり、授業方法をどう工夫するか実は悩んでいたのですが、基本的な発想と分析枠組みを示したうえで、それぞれの関心に沿って国際組織や制度を分析してもらう流れは、結果としてよかったようですね。安心しました。
日本では組織論、とくにその国際組織やそこで働く事務局職員がどのような専門性を持つのかが語られることは多くありません。しかし、専門家に任せてよい範囲はどこまでか、逆に専門家以外の視点による統制が必要なのはどこからか、専門家同士の対立が起こったときにどう調整をするか――こうした問いは、国際組織に限らず、行政の政治化と専門化が進む現代社会でますます重要になっています。
川畑: 私自身、これまで広島のことを中心に学んできましたが、旧日本軍の遺棄化学兵器の問題を通して、日本全体の視点から考えることができるようになり、修士論文やこれから平和を考えるうえでも大切な視点を得ることができました。
臼坂: 私も、地方行政が平和文化をつくる役割は重要だと思っていますが、それだけでは補いきれない部分をどう担保するのかを考えることが自身の研究にもつながると実感しました。
3 国際組織との出会い
大下: この授業では 3 つのイベントを実施しました。広島にある国際組織である国連調査訓練研究所(UNITAR)広島事務所の訪問、元国連職員・荊尾遥氏によるオンラインご講演、そして大久野島でのフィールドワークです。

川畑: UNITAR広島事務所の訪問は、私にとって初めて国連機関に入る経験でした。名前は聞いたことがあったものの、なぜ広島にUNITARがあるのかという背景も知らず、この授業がなければ一生知らなかったかもしれません。
臼坂: 実際に働いている方からお話を伺えるのはとても貴重でしたし、オフィスの様子や国連職員の方々が働いている姿を見ることができるとは思っていなかったので、新鮮な体験でした。
川畑: もともと抱いていた「国連」のイメージとは違って、担当してくださった部谷由佳氏がとても気さくで、オープンに私たちを迎えてくださったことも意外でした。
臼坂: そうですね。職場の雰囲気や、実際に働く人たちの姿を具体的にイメージできるようになったのは、大きな収穫でした。
川畑: 荊尾氏のオンラインのご講演も印象的でした。国連で活躍されてきた方で、率直に「かっこいい」と思いました。核兵器禁止条約の交渉や、OPCWでの実務にも携わってこられたこともあり、授業で学んでいた国際組織の活動の「規模」や「重み」を実感できました。
臼坂: 国連職員の方のお話を直接伺えること自体が貴重で、この授業に参加してよかったと強く感じた場面でした。

大下: そう言ってもらえて何よりです。UNITARが広島にあるのに訪問しないのはもったいないですし、お二人の関心のある核兵器や化学兵器の問題に関わってこられた荊尾氏のような方がいるなら、ぜひお話を聞くべきだと思ってアレンジしました。お忙しい中UNITAR広島事務所も荊尾氏も快諾してくださったのは有難い限りで、心から御礼申し上げたいと思います。
4 大久野島フィールドワーク
川畑: 大久野島でのフィールドワークにも行きましたね。これまで平和公園や広島市内でのフィールドワークは経験していましたが、忠海駅まで朝から電車で移動してフェリーに乗って、大人の遠足みたいでした!
臼坂: そうそう、本当に大人の遠足という感じでしたね。
川畑: フェリーまでの遠足感から一変して、現地では色々と真剣に学ぶことが多かったです。化学兵器施設の実物を見られる機会はなかなかないと思うので、「今行かないときっと行かなくなる」と思って参加しましたが、本当にいい経験ができました。
大下: 広島市内はアクセスが良いので訪問先として選ばれやすいのですが、大久野島は広島市から2時間ほどかかるため、化学兵器の加害や被害の実相に触れる人がどうしても少なくなってしまうという課題がありますよね。さらに“うさぎの島”として有名になってしまい、毒ガス資料館へ足を運ぶ方も多くはないと聞きます。お二人は訪問中、特に印象に残った場所はありましたか?
川畑: 長浦毒ガス貯蔵庫跡です。あれほど巨大な貯蔵庫が当時のまま残っているのは、本当に衝撃的でした。広島市内には原爆ドームがありますが、都市化の中で周囲の景観まで含めた“当時のままの空間”が残っているわけではありません。大久野島は、まるごと当時の実相が残っているという点で対照的でした。

臼坂: ほんとうに迫力がありましたね。私は毒ガス関連だけでなく、大久野島が日露戦争期に要塞だった時代の砲台跡がしっかり残っていたことも印象的でした。資料や施設を“当時の姿のまま残すこと”の意味を改めて実感しました。
それと、毒ガス資料館は規模に比べて展示の内容はとても濃かったですね。陶器製の釜で毒ガスを製造していたことにも驚きましたし、瀬戸内海国立公園らしい素晴らしい景色の中に、あのような施設があったという事実に驚かされました。


川畑: 広島は原爆被害の歴史を持つ一方で、大久野島などで毒ガス製造が行われた場所でもあります。毒ガス製造過程の事故で亡くなった方もいますし、後遺症に苦しむ方もいます。また、中国では実際に使用され、今や化学兵器禁止条約上の遺棄化学兵器の廃棄義務が日本に課されています。遺棄化学兵器にばく露して疾患に苦しむ中国の方もいます。こうした被害に向き合う人がいる以上、広島には「被害」と同時に、ある種の「加害の歴史」もあるという指摘があるのを見て、とても勉強になりました。
大下: なるほど、お二人とも多くの刺激や気づきを得られたようで教員として嬉しい限りです。
5 平和研へのアイデア
大下: ここまで褒めてもらってばかりなので(笑)、私でも平和研全体に対してでも、何か改善してほしい点や要望があれば教えてください。
川畑: あまり思いつかないのですが……強いて言うなら、平和研で使える資料や図書館の活用方法、研究費の使い方などについて、もっと体系的に相談できる場があればよかったと思います。大学院が初めてだったので分からないことが多くて……先生や先輩方に質問しながら少しずつ理解していったのですが、学生も研究費を使えるということを夏休みに入る直前まで知らなかったので、それはもっと早く知りたかったですね。
臼坂: それは私も感じました。後期は授業を少し取りすぎたかなと反省しています。もちろん自分の責任なのですが、修士課程で過ごせる時間は限られているので……。先生方や先輩方には丁寧に相談に乗っていただいていますが、社会人から学生になったばかりで遠慮してしまう部分もありました。「そこまで相談していいのかな……」と躊躇してしまって。
大下: なるほど。改善できる点はしっかり検討していきたいと思います。
臼坂: それから、論文の書き方について一つ要望があります。大下先生の講義で、社会科学の先行研究を分析する際には ①問題設定、②結論、③論証過程、④論証方法の4つの要素を押さえることが大切だと教えていただき、修士論文を書く際にもその視点を意識するようにアドバイスを受けました。それまでそうした捉え方がなく大変勉強になったのですが、逆に修士課程に入ってからなるべく早いタイミングで知りたかったとも思いました。
川畑: そうなんです。論文の書き方や、2年間の研究をどう進めていくかについて、1時間半くらいの講座でもいいので、新入生向けに開いていただけるとありがたいかもしれません。
大下: もともと大学院には「弟子が師匠から技を盗む」という半ば一子相伝のような文化があった印象ですが、確かに今の時代には合わなくなってきていますよね。さきほども話に出たように、平和学は学際的で、分野ごとに論文の書き方や方法論が異なるという難しさもありますが、共通して学生に伝えられるものはないか、私も考えてみますね。
6 未来の学生へのメッセージ
大下: 最後に、これから広島市立大学大学院平和学研究科に入学予定の方々や、進学を検討している方々へ、一言メッセージをお願いします。
川畑: 「一緒に頑張りましょう!」と伝えたいです。「頑張ってください」というよりも、平和の研究に終わりはないので、来年度いっしょに学ぶ学生の方々はもちろん、私が修了したあとに入ってくる方とも、共に平和について考え続けていきたいと思っています。
臼坂: 目標に向かって進む楽しさや同じ志を持つ人との出会いがあり、ぜひ入学して楽しんでほしいです。本研究科に入れば、さまざまな分野の専門家と、学内外でつながることができて、それが一生の財産になると思います。個人的には、「最初は英語ができなくてもなんとかなりますよ」ということも伝えたいですね(笑)。
大下: あくまで「最初は」ね(笑)。ありがとうございました。お二人のこれからの研究のますますの発展と、充実した学生生活を心から祈っています。
<編集後記>
臼坂さん、川畑さん、ありがとうございました。教室と現場をつなぐ平和学研究科の学びが成長につながっていることが伝わるインタビューとなりました。UNITAR広島事務所、受入れを担当してくださった部谷由佳様、荊尾遥様にはこの場を借りて御礼申し上げます。
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