戦後日本における平和と教育
——その理念・歴史・現状・課題に関する基礎的研究 Peace and Education in Postwar Japan

English Below

第一回公開研究会

第二回公開研究会

河上 暁弘 (教授)

本プロジェクト研究は、戦後日本における「平和と教育」に関する論点を探ろうとするものである。これは、戦後日本の平和と教育に関する理念、実践、政策、法制、理論等の歴史、現状、課題を検討しようとするものである。

なお、本研究課題のタイトルは、「平和と教育」であって、「平和教育」ではない。それは、狭義の「平和教育」(平和を希求し平和を実現することを目的とする教育・平和創造の主体を形成することを目的とする教育)のみを検討対象とするのではなく、さらに広く戦後日本における平和のあり方やそれを分析する理論、主権者教育(政治教育)、憲法教育、教育に関する権利論(「人権としての教育」論)、法制(憲法・法律・条約・学習指導要領等)、中央政府・地方政府の政策、教育・学習現場での実践なども検討対象に含めて、またそれらを分析するために、他国の事例(ドイツ、韓国など)との比較も行うことによって、広く平和と教育の関係そのものを検討対象とするからである。

そもそも教育が常に平和と結びついてきたわけではなく、実際には、教育によって軍国少年・少女を作り出すなど、教育は戦争と結びつき、それを備えてきたという歴史にも目を向ける必要がある。しかし、軍国主義教育などのような国家による国民の教化(インドクトリネーション)・マインドコントロールのための教育は、本来の教育ではなく、もし人間を目的としてとらえ、子どもを発達の可能態と考え、その発達の可能性を伸ばすことが教育の本質と考えるならば、それは、必然的に平和と結びつき、平和の創造につながる営みである。そこでは平和は教育の前提条件であり、同時に教育は平和を実現する手段であるという相互的・相補的な関係があるという視点が重要である。

本研究では、戦後日本の学界で積み上げられてきた平和と教育についての理論の現在の到達点を探り、また、戦後日本の「平和と教育」についての教育実践や教育政策の歴史と現状を、研究代表者・分担者それぞれ各自の専門分野から論点を絞って具体的に検証し、今後の課題を探ろうとするものである。

Peace and Education in Postwar Japan

KAWAKAMI, Akihiro (Professor)

This research project aims to explore the issues surrounding “peace and education” in post-war Japan. It seeks to examine the history, current situation and issues surrounding the ideals, practices, policies, legislation and theories of peace and education in post-war Japan.

This research will explore the current state of the theories on peace and education that have been developed in the post-war Japanese academic world. In addition, the history and current state of educational practice and educational policy on “peace and education” in post-war Japan will be examined in detail by the primary researcher and each of the research team members, focusing on specific issues in their respective fields of expertise, in order to identify future challenges.

▶︎ 第一回公開研究会が開催されました。

【日 時】2025年3月10日(月)18時00分~20時00分

【場 所】広島市立大学サテライトキャンパス セミナールーム1
     広島市中区大手町4-1-1大手町平和ビル9階(市役所本庁舎向い)

【報告者】麻生 多聞(東京慈恵会医科大学教授)

【テーマ】
平和憲法論の「原点」を探究する憲法理論:河上暁弘『戦後日本の平和・民主主義・自治の  論点――小林直樹憲法学との「対話」に向けて』の憲法学的意義

【司 会】河上暁弘(広島市立大学広島平和研究所教授)

【概 要】
戦後日本の憲法学の権威者の一人として非戦・非武装平和主義の憲法平和主義理論を構築し、学界のみならず論壇等にも大きな影響を与えてきた憲法学者が小林直樹・東京大学名誉教授であり、その小林が提起してきた理論と「対話」しながら歴史的・構造的に考察したのが、河上暁弘著『戦後日本の平和・民主主義・自治の論点――小林直樹憲法学との「対話」に向けて』である。今回は、この本を一つの素材・検討対象として、最新の憲法平和主義研究の立場から、日本の平和の歴史と現在の論点についてあらためて考察した。  

【報告者略歴】
東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得。博士(法学)(早稲田大学)〔学位申請論文『憲法9 条学説の現代的展開―戦争放棄規定の原意と道徳的読解』2020年学位取得〕。鳴門教育大学講師、准教授、教授を経て2024年4月より現職。主著(単著)として、『平和主義の倫理性――憲法9条解釈における倫理的契機の復権』(日本評論社・2007年)、『憲法9 条学説の現代的展開――戦争放棄規定の原意と道徳的読解』(法律文化社・2019年)がある。

▶︎ 第二回公開研究会が開催されました。

【日 時】2025年9月3日(水)18時00分~20時00分

【場 所】広島市立大学サテライトキャンパス セミナールーム1
     広島市中区大手町4-1-1大手町平和ビル9階(市役所本庁舎向い)

【報告者】宮盛 邦友(学習院大学准教授)

【テーマ】
「戦後改革・戦後史・地球時代における子どもの権利と平和の思想――教育学・教育法学・総合人間学の立場から――」

【司 会】河上 暁弘(広島市立大学広島平和研究所教授)

【概 要】
戦後80年である。戦後改革の中で誕生した「日本国憲法・教育基本法法制」は、戦後史における教育と政治との緊張関係の中で「子どもの権利と平和の思想」の到達点に至った。地球時代では子どもの権利条約にも励まされて、「新しい社会的公共性community」として、私たち(「Is(アイズ)」)によって地域と地球に根ざすことが求められている。子どもの権利の視点から「戦後日本の平和と教育」の基礎基本にあらためて立ち戻ることで、これからの学問・社会・私の立ち向かうべき課題を確認した。

【報告者略歴】
神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科仏文学専攻卒業。中央大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。北海道大学助教を経て2014年4月より現職。著書としては、『戦後史の中の教育基本法』(八月書館・2017年)、『現代教育法』(共編著、日本評論社・2023年)、などがある。