平和の鳩、羽ばたく――広島平和研究所のシンボルマークとタグラインが新しくなりました Peace Dove Rising: A New Symbol and Icon for the HPI

広報委員会・河炅珍

この度、広島市立大学広島平和研究所のシンボルマークが新しくなりました。黄金の光からできた、鳩をモチーフにしたものです。

鳩といえば、誰もが知っている平和の象徴(シンボル)――。ところで、みなさんはその由来をご存知ですか。旧約聖書の「ノアの方舟」に関する記述には、洪水が終わったことを知らせた鳩の話があります。ノアは、放たれた鳩がオリーブの枝をくわえて戻ってきたことを見て水が引けてきたことが分かったのです。大洪水が終わり、人類に再び平和が戻ってきた。この嬉しい知らせを運んできた鳩が、平和の象徴となったわけです。

旧約聖書における鳩の物語は、現代に入って平和を象徴するイメージ/デザインとなって復活しました。1949年に開催された第1回平和擁護世界大会(World Congress of Partisans of Peace)のポスターに、パブロ・ピカソが描いた鳩の絵が用いられたのです。これにより、ピカソの鳩は世界中で平和の象徴として知られるようになりました。

日本において「平和」と「鳩」が結びつき、より身近なイメージとして普及するようになったきっかけは、意外なところにもあります。戦後まもない1946年、日本専売公社(現、日本たばこ産業株式会社)より「ピース(Peace)」というタバコが販売され、1952年からパッケージに鳩のデザインが使われるようになりました。「ピース」という名前は一般公募から選ばれたもので、戦後、平和を切実に願う人々の気持ちが反映されていたともいえるでしょう。

「国際平和文化都市」を目指してきた広島でも、鳩をモチーフにしたデザインがあちこちで見かけられます。例えば、広島市では2014年より、羽ばたく白い鳩のオリジナル・デザインを施した原動機付自転車用ナンバープレートを交付していますが、こちらの図柄は広島市在住の方が考案したものだそうです。また、広島市中区のシンボルマークは、飛躍する鳩と中区の「中」をあわせて図案化したものだといいます。

さて、前置きが長くなりましたが、歴史とともに人々の心のなかで平和の象徴となってきた鳩を、「広島発の平和学」を推進する広島平和研究所の新しいシンボルマークとして解釈したのが、こちらです。

デザインを担当されたのは、広島をはじめ、全国の様々な組織・団体のロゴマークや商品デザインなどを手掛けていらした、広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科の納島正弘先生です。デザインの着想に至った経緯について納島先生は、「広島平和研究所は、国際的な見地から広島の責務としての学術研究機関として、これらの課題の分析・考察に取り組み、国際平和文化都市・広島の『知』の拠点としての役割を担うことをモットーとされております」と述べられ、「平和都市広島を象徴する対外的にもわかりやすく、普遍的な『平和』のモチーフとして『はと』」に注目したと話されています。

広島市立大学のコミュニケーション・マークと視覚的イメージの連携を図ることも制作における重視なポイントの一つでした。

平和の光を、広島平和研究所のシンボルカラーでもある黄金色の帯(三つの線)で表し、それをねじり、折り曲げ、パースペクティブを強調したものを立体的に組み立てることで、様々な形の鳩が誕生しました。並べてみると、鳩が自由に空を飛んでいるような躍動感がよりよく伝わってきます。

広島平和研究所ならではの個性・アイデンティティが込められた要素はほかにもあります。シンボルマークの横、組織名の上にあるタグラインをご覧ください。タグラインとは、組織のビジョンや理念を伝え、もっとも重視すべき価値を表す言葉ですが、この度、新しくなったシンボルマークに相応しい言葉として選ばれたのが「心をつなぐ知の拠点」です。

提案者の一人である広島平和研究所の水本和実先生は、平和の創造における二つの側面に触れています。広島平和研究所は、これまでの歴史のなかで平和を研究する組織として、学術成果を生み出し、国内外における研究者のネットワークを支え、国際的に広がる「知の拠点」を創ることが求められてきました。

とはいえ、これだけでは真の平和を構築することは難しいかもしれません。なぜなら、平和を創ることは「互いに対立している人間集団が対立から和解に向かうために」、「人間同士の心を通わせる、あるいは、心の通った状態になるように仲介する」ことも大事だからです。広島平和研究所は設立以来、アカデミアと市民社会をつなぎ、様々な担い手と積極的に関わりながらこうした「仲介役」を演じることも期待されてきました。

この二つの思いを掛けあわせた表現が、「心をつなぐ」なのです。そこに込められた思いを、広い世界に向けて飛び立つ鳩のシンボルマークとあわせて汲み取っていただければ幸いです。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、すでにこのウェブサイトには新しいロゴマークが使用されています。こうして振り返ってみると、鳩のモチーフを現代的に解釈した新しいシンボルマークと、「広島からの平和学」を推進する組織としての存在意義が込められた言葉が一つになったことに必然性を感じます。これまで広島平和研究所が歩んできた道(伝統)を大切にしながら、さらにこれから進むべき道(未来)を展望する――。その分岐点を、この新しいデザインとともに迎えることができて広島平和研究所の一員としてとても嬉しく思います。新しいシンボルマークとタグラインができるまで、様々な場面でご協力いただいた全ての方にこの場を借りて改めて感謝申し上げます。