北朝鮮の核開発の現状とガバナンス動向

孫 賢鎮(准教授)

*この記事は、広島平和研究所ブックレット第11巻に掲載されたものです。
ここでは、その一部をご紹介しております。

1 北朝鮮の核開発の現状

二〇一八年六月一二日に初めて開かれた米朝首脳会談の後、二回目の米朝首脳会談は二〇一九年二月二七―二八日にかけてベトナムのハノイで開かれたが、北朝鮮の非核化措置とこれに応じる経済制裁の解除をめぐる相互の立場の差を埋めることができず、失敗に終わった。金正恩委員長にとって、ハノイの米朝首脳会議の決裂は人生最大の挫折であり、内部的には最高指導者の権威にかかわる深刻な打撃であった。このことは北朝鮮の国内政治にも深刻な影響を与え、党統一戦線部主導の外交チームの再編を含めた対米交渉の再検討も行われた。

北朝鮮は、二〇二一年一月に開催された朝鮮労働党の第八回党大会で、新たな五年間に達成すべき重大目標の一つとして国防力の強化を提示し、「戦術核兵器の開発」計画を発表した。すなわち、北朝鮮の核開発の目標として、国家戦略目標の達成のため核能力の活用(strong and prosperous nation)、軍事・安保面での外部からの安保脅威に対する抑止戦略(deterrence strategy)、外交戦略の側面での対外交渉戦略としての必要性(coercive leverage)、対内的には体制結束(regime security)を強調した。北朝鮮の戦略は、核開発の完成によって北朝鮮主導の朝鮮半島の統一を目指し、また米韓同盟の瓦解を通じて米国の核抑止力に対する信頼を弱体化させることにある(Rand 2021: 7-12)。また、二〇二二年一二月二六―三一日にかけて開かれた朝鮮労働党中央委員会第八期第六回総会拡大会議において、米国と敵対勢力の脅威に対処するため、軍事力強化を倍加する努力をするとともに、迅速な核反撃能力の獲得を基本使命として、大陸間弾道ミサイル(ICBM)システムの開発に関する課題が提示された。続いて、核戦力強化の重要性を強調しながら、韓国を「明白な敵」として規定し、戦術核兵器の大量生産とその必要性、核弾頭の保有量を幾何級数的に増やすことを提起した。

さらに、二〇二三年一二月、金正恩委員長は、朝鮮労働党中央委員会総会で、「対南・統一政策における根本的な方向転換」を強調し、韓国とは「もはや同族ではなく敵対的な二つの国家、交戦国の関係に固定化」としたと宣言した。これは先々代の金日成主席以来の南北統一の理念が放棄され、これまでの南北朝鮮の向き合い方が大きく変わり、南北関係が破綻したことを意味する。これによって北朝鮮は政府内の対南関連機構を廃止、縮小し、朝鮮半島での軍事的な緊張を高めている。これまで北朝鮮はいかなる場合でも核兵器を放棄しないというメッセージを対外的に発信する一方で、対内的にも憲法に「核保有国」と明示し、「核保有国法」、「核政策法」などを整備して核保有国の地位を確立してきた。一方、北朝鮮は韓国文化の拡散(K―POP、韓国映画・ドラマなど)が北朝鮮体制を深刻に脅かすと判断し、「反動思想排撃法」、「朝鮮民主主義人民共和国青年教養保障法」、「朝鮮民主主義人民共和国平壌文化語保護法」などを制定し、北朝鮮住民を厳しく統制していると考えられる。北朝鮮の意図は、国内での幹部や人民の韓国への憧れと追従を根絶し、体制にとって脅威となる韓流を強力に統制するために、南北関係を戦争中の交戦国として規定したものと考えられる。事実上(de facto)の核保有国である北朝鮮の核問題は、朝鮮半島で最も大きな安全保障上の脅威として浮上しているが、今も明確な解決策を見出せずにいる状況である。

本稿では、最近の北朝鮮の核開発の動向から米朝首脳会談が失敗に終わった後の北朝鮮の核政策および対南(韓国)政策の変化を考察し、これに基づいた北朝鮮の意図を分析する。また、事実上の核保有国である北朝鮮の核開発の現状を分析し、今後の北朝鮮の核開発問題を解決するための課題を考察する。

2 北朝鮮の核開発の動向

通常、核保有国は核兵器の生産のために、核物質の生産および核弾頭の開発やミサイルなどの発射手段の研究開発の段階から、実質的な作戦配備・運用をする作戦運用の段階を経て、配備された核戦力の維持・強化や戦術核の開発といった最終段階に至る。このような推進ぶりを総合的にみると、北朝鮮はすでに研究開発の段階を超え、限定的ではあるが核戦力を作戦配備し、さらに戦術核を開発する段階に入ったとみられる。二〇二一年一月の第八回党大会では、核・ミサイル能力の高度化に向けた国防分野の戦略的課題と、これを達成するための「国防科学発展および武器体系開発五カ年計画」(以下、五カ年計画)が発表された。金正恩委員長は、二〇二二年四月二五日、「朝鮮人民革命軍」設立記念日の軍事パレードの演説において「核武力を最大限に早く発展させよ」と強調した。同年九月の最高人民会議では、「核武力の質量的更新・強化」と「非核化不可」の立場を明らかにし、核・ミサイル能力の高度化を持続する意志を表明した(韓国防衛白書 2023: 21)。また、ICBM体系の開発や、「戦術核兵器の大量生産の重要性と必要性」、「核弾頭保有量を幾何級数的に増やすこと」など、核攻撃手段の多様性や実戦配備に関する方針を示した。特に、二〇二三年四月一三日には、固体燃料方式のICBM「火星一八」の試験発射に成功したと発表した。北朝鮮は「火星一八」について、「戦略武力の展望的な核心主力手段」であり、「重大な戦争抑止力の使命を遂行する手段」として紹介した。その後、金正恩委員長は、二〇二三年八期六次全員会議において、「核武力および国防発展の変革的戦略」として、米国本土を狙ったICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの固体燃料化、弾道の小型化、多弾頭化、再突入技術の向上を指示した。

このように北朝鮮の核軍事計画は依然として国家安全保障戦略の中心であり、二〇二三年一月時点で最大約三〇発の核兵器を製造している可能性がある。また、合計五〇―七〇個の核弾頭を保有できる核分裂性物質を有していると推測されている(SIPRI Yearbook 2023:306)。 

さらに、米国の科学国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security: ISIS)は、二〇二二年一二月の時点で北朝鮮の核兵器保有数は三五―六三個と推定している。韓国の国防部によると、北朝鮮は朝鮮半島および周辺国を直接攻撃可能なScud―C(射程距離三〇〇―五〇〇キロメートル)、ノドン(一三〇〇キロメートル)、ムスダン(三〇〇〇キロメートル)の各ミサイルを実戦配備しているとみられる(韓国防衛白書 2022:31-32)。また、ミサイル発射の兆候の把握を困難にするため、移動式発射台(Transporter Erector Launcher:TEL)や潜水艦、鉄道など、さまざまな発射手段を活用し、発射の秘匿性や即時性を高め、奇襲可能な攻撃力の向上を図っているものとみられる(防衛白書 2024:120)。

図1 World nuclear forces, January 2023

出典 SIPRI Yearbook 2023

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