NPT再検討会議の見通しと課題 Prospects for the NPT Review Conference

English Below

2000年3月28日 HPI研究フォーラム

講師 黒澤満(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)

1. テーマ
「NPT(核不拡散条約)再検討会議の見通しと課題」

2. 日時
2000年3月28日(火) 15:00~17:00

3. 場所
広島平和研究所 会議室

4. 報告概要
本日のテーマは、NPT(核不拡散条約)再検討会議の見通しと課題です。今年の4月から5月にかけて4週間ニューヨークでNPTの再検討会議(Review Conference)が開かれますが、非常に重要な会議なので、これまでの経過、見通し、問題点等について述べます。

まず再検討会議の性質と成果についてです。NPTの第8条の第3項にありますが、再検討会議(Review Conference)は、条約当事国の会議が条約の施行(operation)を見直す(review)ために開かれます。その目的は、条約の目的、前文の目的、条約の規定が具体化(materialized)されていることを確保するためです。条約の起草過程を見てみると、65年8月のアメリカの最初の条約案に出ています。国務省軍備管理軍縮庁(ACDA)のディレクターが、核不拡散というものが、これだけあると、持ってない国が持っているであろうからという説明をしています。それが67年の米ソ同一条約案というので若干修正されて5年目以降、最初は5年に1回やるということが述べられています。

アメリカは、再検討会議の基本的な目的は、条約の全部のところをreviewすると言っています。私は、起草過程あるいは条約の内容から見ると、基本的には核軍縮の進展をチェックする会議であると考えます。特に、第6条の義務が履行されているかどうかです。これは義務の性質からきますが、核不拡散というのは条約に入ったらすぐそこで実効性を持ちます。しかし、核軍縮はすぐには進まず、時間がかかります。それをチェックしていこうというのが、基本的なReview Conferenceの性質ではないかと私は理解しています。

再検討会議が条約の履行状況を審議する唯一の場になっています。例えば東京フォーラムでは、事務局等をつくって履行状態を検討しようという提案がなされましたが、それがない限り唯一の場であります。70年に条約が発効され、その後5年ごとに5回開かれています。第1回が75年で起草委員会(draft committee)は失敗して、最後に議長が議長提案で出して採択されました。80年は失敗して、85年は多分失敗するだろうと思われましたが、なぜか採択されました。90年は冷戦が終わって非常にいい時で、これは採択されるのではないかと思われました。しかし、最後にメキシコが包括的核実験禁止条約(CTBT)をやらないと賛成しないと言って失敗したという状況があります。再検討会議では、条約の前文及び各条項の履行状況の検討、作業文書や決議案が提出されます。コンセンサスで大体決めていきますが、基本的には第6条の履行の検討において意見が対立して合意ができないという状況です。

1995年のNPT再検討・延長会議についてですが、これは再検討の5年ごとと25年目ということで、延長をどうするかということを決めた会議です。会議でどういうことが決められたかというと、最初に再検討に関する最終文書の採択には失敗しています。今まで、1回目からずっと最終文書の採択を目的に行ってきましたが失敗しています。もう少し具体的に言いますと主要委員会が三つありまして第1主要委員会は、核軍縮とか核不拡散等を扱います。第2主要委員会は基本的には保障措置、第3主要委員会が原子力の平和利用です。第2と第3主要委員会は最終文書の採択に成功しています。ですから、三つの委員会があり、2と3は成功しているのですが、1が起草(drafting)に失敗していました。その基本的な理由は、アメリカ、ロシアは核軍備競争は終わったという評価をしましたが、非核兵器国は、核軍備競争はまだ終わっていないという評価をしました。そこで合意が得られなくて最終文書の採択に第2、3はできたけれども全体としてできなかった、というのが第一点です。

議長によるパッケージとしての三つの決定を投票なしで採択しています。そこで決定1、2、3があり、1は条約の再検討プロセスを強化しようと、1回だけではなくもっと頻繁にかつその権限(mandate)を拡げようということが決まります。決定2は核不拡散と核軍縮の原則と目標ということで、核不拡散と核軍縮に関して将来こういう事を行うということを決めます。第3番目に条約の無期限の延長を決定する、ということです。これはパッケージで投票なしで採択される、無期限延長を決める場合にはこれは過半数で決まるという条件になっています。これだけではなくて決定1と2とパッケージで、ある意味では条件付の無期限延長だと言っていいと思います。

もう一つ、このパッケージが採択された後に中東に関する決議がありました。特にイスラエルをターゲットにしていますが、中東に関して和平プロセスを進めるとか、NPTに入っていない国に入るように勧めるということが、米ロ英によって提案されました。もしこれがなければアラブ諸国は、前のパッケージにも反対したであろうという条件みたいなものです。ですから三つがパッケージなのか四つがパッケージなのかがいろいろ議論されます。機械的には三つがパッケージでそれから後で決議が採択されていますが、現在ではこれは全部パッケージだというかたちで考えられています。無期限延長をアラブ諸国が賛成したのは、中東に関する決議があったからで、これが履行されないと無期限延長した場合の条件に違反するという議論が最近されています。

これが95年の再検討延長会議で決まったことです。強化された再検討プロセスというのは、再検討をもっと強化しようということで、一つは今後5年ごとに再検討会議を開催するということです。5年ごとに開かれているので同じようなものなのですが、今までは多数決で次に5年後に開こうということを一回ごとに決めないといけませんでした。そうではなくて誰が決めなくてもこれから毎回5年ごとに開きます、という例外になりました。

2番目は現行の三つの主要委員会の構成を維持するということで、若干問題がありますが、再検討会議の中に主要委員会1、2、3をつくるということです。

3番目に、特定の問題につき個々の主要委員会の下に補助機関(subsidiary body)を設置でき、ある問題を集中的に検討することができると決められています。

それから再検討会議は過去と同様に未来をも検討するということです。これは新しい方法で、これまで再検討会議は基本的には過去5年間にはどうだったか、もちろん不足しているからこうしなさいということはありました。これからの再検討会議は、前に述べた決定2「核不拡散と核軍縮の原則と目標」のように、今後5年間でこういう事をしなさいということも議論できるようになりました。

5番目は、準備委員会が3年前から3年間、10日間開催されるということで、97年に10日間、98年に10日間、99年に10日間というかたちで開催されてきました。今までの準備委員会は手続き事項だけを決めてきました。95年の決定では、準備委員会は条約の完全履行のための原則、目的、手段を検討し、再検討会議にそれらにつき勧告するということになりました。手続き的なことだけではなくて実質事項も準備委員会は議論し、勧告できるということです。準備委員会が3年前から毎年10日ずつ開かれていますが、それは手続き的なことだけではなくて実質事項も議論して再検討会議に勧告できるということになりました。再検討プロセスが時間的にも拡げられたしmandateも拡げられたということです。ここ過去4年から5年の間に行われてきました。

実際にどういうかたちで準備委員会が進められてきたかということに移りますと、3年前からということで97年の4月7日から18日、ニューヨークに149ヵ国が集まって第1会期が開かれております。そこで議論されていろいろな提案がされ、議長がまとめています。議長声明として第2会期で安全保障(security assurance)、中東問題、カットオフ問題に特別の時間を割り当てて98年に議論することを決めております。それから議長作業文書として再検討会議への勧告案をつくりました。当初は再検討会議に対する勧告として正式の文書としようと議長は考えていました。しかし、メキシコが、核軍縮が含まれていないから正式の文書とは認めないということで議長ぺーパー(chairman's paper)から議長ワーキングペーパー(chairman's working paper)となって附属書に含まれる、つまり報告書の本文には含まれないというかたちになっています。第1回目はまあまあうまくいったというふうに評価されています。

第2会期は98年の4月27日から5月8日にジュネーブで開かれまして、報告書は手続き事項しか含んでおらず、実質事項は何も合意されませんでした。それがうまくいかなかった主要な原因は中東問題です。特に、エジプトを中心としたアラブ諸国が、中東問題はパッケージの中の一つなのだからこれをもっと重要視し、それに対するバックグラウンドドキュメントをつくると言っていました。アメリカはそれに反対しまして、パッケージは前の三つであって中東問題は付け足しなのだということを言うわけです。これで会期自体が何も合意できなくなり、議長がワーキングペーパーを別に提出していますが、これはまるっきり非公式なものとして取り扱われます。    

第3会期は99年5月10日から21日まで開かれました。勧告の基礎としての議長ワーキングペーパーが出されます。これは実質的な内容を含んでおりまして5月14日に31パラグラフからなる議長ワーキングペーパーが出されましたが、それに対して各国がいろいろな意見を出しました。5月20日に61パラグラフからなる修正議長ワーキングペーパー(revised chairman's working paper)が出されました。これはまだ賛成、反対する国がいろいろありまして、全員合意したわけではなく、正式な文書とはなりませんでした。これも附属書の中につけられました。実質事項に関する様々な問題が含まれております。第3会期で手続き事項の準備が完了されます。日時、場所、手続き規則案、議長その他の選挙、事務局長の指名、仮議題、財政、背景文書を出す、という手続き事項では、準備が完了ということです。もう一つ合意されたのは、再検討会議で期待される成果、再検討会議で何を結果として出すのかということです。会議は過去5年間の成果を評価し、将来に一層の進歩がなされるべき領域及びその方法を識別すべきだということで、過去のレビューと将来の行動計画を成果として出すべきだ、ということです。さらに、条約の履行を強化するため、及び普遍性を達成するためになすべきことを特に指摘すべきという文書が採択されています。これは、95年に採択されました強化された再検討プロセスの最後の報告と同じような文書になっており実質的にはあまり進歩はありませんが、過去5年間の履行の評価(backward looking)と今後5年間の活動計画(forward looking)の両方の文書をつくるべきだということが決められています。

実質事項については準備委員会は合意された勧告をなすことはできず、決定1の「準備委員会は条約の完全な履行を促進するための原則、目標、方法を勧告する」という目的は達成されませんでした。実質事項についても合意が達成されなかったことへの学者の評価の一つは、これによって準備委員会は全くの失敗だったということです。それは特に国際情勢が悪い中で、アメリカとロシアの間、アメリカと中国の関係が非常に悪い事等に基づいて核兵器国の協力がなかったからこれに失敗したという評価が一つあります。また、準備委員会の段階では各国はなかなか最終的な意思決定をしないという評価もあります。準備委員会までは、各国は合意をすることは必要とは考えてないので、こういう手続きはもともとうまくいかないという評価です。もちろん両方ミックスされていると思うが、そういうかたちで準備委員会の評価が分かれています。手続き事項については準備が完了していますから、そういう意味では会議が開催されますが、実質事項についてはそういうかたちで、できなかったということです。

2000年再検討会議の展望に移りますが、実質問題に入る前に実質問題審議の手続き、会議がどのように行われるかという側面が非常に重要になってきます。最初は議長の選出です。セレビ(Jacob Selebi)をご存知だと思いますが、南アフリカの人で対人地雷禁止条約のオスロ会議の議長をして、対人地雷禁止条約をまとめた人です。非常に外交的に信頼される人で軍縮問題にも知識があり、この人ならうまくいくのではないかということで、非常にプラスだというふうに評価していましたが、南アフリカの事情で、ある大臣に決まりまして軍縮交渉担当ではなくなりました。今は、アルジェリアの国連常駐代表のバーリー(Abdallah Baali)に代わりました。ここにも来られたと聞いておりますし、日本政府にも挨拶に来たと聞いておりますし、私もワシントンで一度お会いしました。最近非常に勉強しているということでしたが、軍縮の分野、安全保障の分野の専門家ではないのです。どうして彼がなったのかということで若干不思議がありますが、非常に本人がなりたくてなったという話がありまして、広島平和研究所の方が後でフォローして頂ければいいが、若干ここがマイナスになっているのではないかというのが専門家の間の考え方です。いろいろな専門家がバーリーに対して特訓している状況です。これが、会議のマイナスの側面ではないかと思います。

2番目に、これは強化された再検討プロセスの大きな目玉だったのですが、subsidiary bodyを設置することにおいてある問題を集中的に討議するということです。その準備委員会の段階で、一つは核軍縮の補助機関を設けるべきだということを南アフリカを中心に非同盟諸国が言っています。もう一つは中東問題のsubsidiary bodyをつくるべきだ、とアラブ諸国が言っています。この二つは明らかに本会議で出てくると思います。他に例えば消極的安全保障についてつくるべきだとか、あるいは宇宙空間の平和利用についてつくるべきだという意見が出てくるかもしれません。その補助機関を、いつ、どのように、どの期間、どういう付託事項でつくるかというのが非常に重要な問題になるわけで、そこで集中的に討議が行われます。これは、三つの主要委員会のそれぞれがつくります。会議が始まってすぐに主要委員会は動きませんので、第一週の終わりか第二週の始めに委員会で多分コンセンサスでつくられるだろうからそこで非常にもめるのではないかというのが一つの予測となっています。

これはアメリカが非常にいやがっていまして、例えばACDAのジョン・ホラムに言わせるとアメリカとしてはsubsidiary bodyをつくりたくない、議論は全部本会議(main committee)でしたいのでアメリカは反対する、ということを言っています。大統領の不拡散に関する特別代表ノーマン・ウルフがいますが、彼に聞いたところ、アメリカが反対だけれどもみんなが言い出せば、という若干ニュアンスが違っていました。しかし、アメリカは基本的に反対で、特に核軍縮に関してsubsidiary bodyをつくるのは反対だということでした。非同盟は、これを是非つくるべきだということで、会議の最初の頃からこの辺で非常にもめて時間が費やされるのではないかと思います。仮にできた場合に審議するだけなのか、あるいは交渉までできるのか、それから4週間の会議が終わった後も存続しうるかどうか、という議論が残っています。決まったことは、補助機関をつくることができるということしか書いていないということです。そういうことが吟味されて、へたすると一つもできないということがありうるかもしれません。

3番目の問題は、三つの主要委員会をつくるというかたちで決まっていますが、この任務が非常に不均衡であります。そのmandateを見てみますと第1委員会は核不拡散、核軍縮、安全保障1、2、6、7条、第2委員会は核不拡散、保障措置、非核地帯化(NWFZ)、その他3条あるいは若干1条2条関係、7条、第3委員会は平和利用で3条3項と、4、5条。例えば第1会期に議長のワーキングペーパーが出ましたが、1の普遍性を置いておきまして、第1主要委員会は核不拡散、核軍縮、NWFZ、安全保障、第2主要委員会は保障措置、第3主要委員会は原子力の平和利用を扱うということです。これを見ていただいらお分かりのように、第2、3というのは非常に暇で、議論の対立の少ないところです。第1委員会にものすごくたくさんのそして議論的(controversial)な部分がある、ということは2、3ではコンセンサスで最終文書が採択されるが1でものすごくもめて時間切れになるだろうという心配があります。95年もそういうことになっています。だから、この委員会の体制も変えなければならないのではないかという議論がしばしばなされています。

4番目の問題は、文書採択の決定に関することです。意思決定は基本的にはコンセンサスなので、一国が反対すると何も採択されないというのが基本的な原則です。例外的に3分の2とあるが、今までの再検討会議ではこの3分の2は一回も使われておらず、コンセンサスがなければ決まらないという難しい問題が残っています。

主要委員会ではあるけれども、議長の役割は大きく、85年に文書を採択しています。Friends of the Presidentということで、20名の取り巻きを選んでそこで大体決めています。95年の再検討延長会議のときも、President's Consultations ということで25の国の代表、大体地理的、分野別と言いますかその代表を選び、そこで議論してそして議長提案として出してくるという方法が行われています。これは非公式で、手続き規則も何もないやり方なのですが、今回も多分そういうやり方をするのではないかということが考えられます。非公式なところで大体のコンセンサスを順番につくって各グループの代表を入れておいて行うというかたちが取られるのではないのでしょうか。

最後にどういう文書を採択するのかということで、準備委員会の議論を見ると四つの考え方があります。一つは二つの文書、2番目は三つの文書、3番目は一つの文書、4番目はセットとなった文書という言い方をしています。大多数の国が、過去5年間の履行の評価(backward looking)の文書が一つ、今後5年間の活動計画(forward looking)の文書が一つ、という二つの文書と言っています。80%ほどの国は、過去5年間と今後5年間の関する文書の二つの文書を採択すべきだと言っています。更に再検討プロセスの明確化、つまり再検討プロセスが強化されたけれども簡単にしか決まっていないのでそれを明確にする文書が一ついるのではないかというのが三つの文書を採択すべきだという意見です。これは二つは当然すべきだということで、追加的なので、必ずしも第1の見解とは対立しないのです。それから一つと言っているのは、過去と未来をいっしょの文書でやるべきだということです。これは一つはフランスが言っているのと、イランを中心に非同盟諸国が言っています。フランスは昔のやり方でいいんだという言い方をしています。イランや非同盟が言っているのは例えば将来の文書だけ採択されて過去のが採択されなくても最初の考え方だったら成功になるのです。しかし、非同盟諸国はleverageして両方採択されないと会議は成功とは言わせないという立場で一つの文書にすべきだということを言っています。それからセットというのは例えば中東に関する決議をもう1度新たに入れろとか、95年と同じような感じでやるべきだという、まあ少数です。基本的には二つ、あるいは三つの文書というのが準備委員会での多数意見です。  

それでは実質問題に入りますが、これは95年の核不拡散と核軍縮の原則と目標が七つのカテゴリーに分かれているので、それに沿って話を進めます。ただ、準備委員会の第3会期の勧告の基礎として出された議長ワーキングペーパーでは八つのカテゴリーに分かれており、もう一つの枠は中東問題を入れています。中東問題に関してアラブ諸国は非常に強い主張をしているので、一つ付け加えて八つにしてあります。

実質問題について、どういう問題点がありどういう問題が予想されるかという話で、まず最初はユニバーサリティ、つまり普遍性の問題が挙げられます。NPT加盟国は95年は178ヵ国加盟国でしたが、現在187ヵ国で、9ヵ国増えているというプラスの面がありながら、インド、パキスタン、キューバが入っていないという状況です。次に中東問題が非常に大きな問題です。特に、イスラエルがらみで米国対アラブ諸国という対立が必ず現れるであろうし、加えて95年の中東決議が殆ど履行されていません。それに対してどういう対応をするかということが議論になろうかと思います。もう一つはインド、パキスタンの核実験です。普遍性に関して、安保理決議の1172を繰り返すだけなのか、あるいは新たな措置を決めるのかという問題があります。

次に核不拡散ですが、これは条約に入っている国が必ずしも条約を遵守しているとは言えない状況です。一つは北朝鮮で、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)のプロジェクトが若干遅れているが、米朝協議も一応、断続的に続いており、KEDOも遅れながらも進んでいます。まだ決着を見ていない問題をこの会議でどのように取り扱うかという問題があります。もう一つは、国連イラク大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)がつぶれ、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)がつくられたが、イラクがその受入れを拒否している問題です。そういう新しい検証査察制度に反対しているイラクに対してどういう要請をしていくのかが核不拡散の問題です。

一番メインになるのは核軍縮の話です。1995年の原則と目標(Statement of Principles and Objectives)に、CTBTとカットオフ条約と核削減について書かれています。プラスの方向としては1996年の国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見と1998年の北大西洋理事会(NAC)提案というのがあります。

まずCTBTから見ていくと1999年10月に条約発効促進会議がウィーンで開かれたが、批准あるいは署名を要請するだけの決議に終わっています。そのすぐ後にアメリカの上院がCTBTの批准を拒否したという、非常に大きなマイナスがありました。そしてCTBT発効のためには44ヵ国の批准が必要だが、インド、パキスタン、北朝鮮がまだ署名していません。アメリカ、ロシア、中国、イスラエル等17ヵ国がまだ批准していないという状況があり44ヵ国にはまだまだとどきません。会議ではもちろん、アメリカに対する非難、あるいはインド、パキスタン、北朝鮮に対する非難や署名の要請が出るでしょう。現在5大国が継続しているモラトリアムについて、それをより明確化していこうというのが出てくると思われます。それから署名、批准の促進という側面が出てくるであろうと思われます。あるいは期限を切るかもしれないという状況です。

2番目の核分裂性物質の生産禁止に関する条約(カットオフ条約)ですが、これは95年の原則と目標の2番目にあり、即時に交渉を始めて早期に条約を締結しようという要請でしたが、全然進んでいません。今はゼロの状態で、一時は暫定委員会ができたが何も交渉していない状況です。交渉が進まない原因の一つは核軍縮とのリンケージです。非同盟諸国は生産禁止するのもいいが、核軍縮の交渉も同時に始めてほしいと95年からずっと言っており、それが失敗のメインの原因となっています。最近、中国がカットオフ条約交渉と宇宙の平和利用とリンクさせる事を主張しています。宇宙の平和利用とは戦域ミサイル防衛(TMD)やエネルギー問題等のアメリカの話で、これを先にやらないとカットオフをやらないと主張しています。中国にとってはそちらの方が大事だということです。この二つのリンケージがあり、三つ一緒にやらない限りなかなか進まないという状態です。

それからもう一つ、カットオフ条約に関しても将来の生産だけを提示するのか、現在のストックも何か規制するのかという問題もあります。5大国は、将来の生産だけを禁止すればいいのではないかと主張しています。非核兵器国、特に非同盟諸国は現在のストックに対してもある程度の規制がなければ意味がないと主張しています。中国以外の4核兵器国は正式にモラトリアム、つまり生産停止を宣言しているので、それを継続して更に明確化することが重要です。それから条約交渉の早期開始は、前記のリンケージの問題をどう解決するかということにかかってくると思います。もう一つは核兵器国に対する国際原子力機関(IAEA)保障措置の適用です。核兵器を解体することにより取り出された兵器用核分裂性物質を平和目的に転用することに対して、IAEAの保障措置を適用していくことが必要と考えられます。

3番目の核兵器の削減に関して言うと、戦略兵器削減条約(START)は過去5年間、93年にSTART IIが署名されて以来進展がありません。ロシアがSTART II条約を批准していないというのが基本的な問題です。どうして批准しないかという裏にはNATOが東方に拡大しているとか、あるいはコソボに対する爆撃だとか、最近の米本土ミサイル防衛(NMD)があり、米ロ間で悪循環が非常に進んでいます。97年3月のヘルシンキの共同声明、99年6月のケルンの共同声明、START Ⅲで戦略核弾頭数を米ロとも各2000~2500に削減する等、交渉はしていないが協議は始まっているという状況です。START IIの早期発効、START IIIの交渉開始と締結、更にSTART Ⅳまでの交渉を開始する必要があります。START IIとSTART IIIを同時に署名、批准することもありうると考えられます。

4番目は戦術核兵器、あるいは非戦略核兵器で、1991年か1992年にアメリカとロシア(ソ連)がそれぞれ一方的に撤去しましたが、これは法的拘束力が全くありません。1997年3月のヘルシンキの共同声明では、START IIIで戦術核兵器も取り扱うということがうたわれていますが、最近ロシアが戦術核兵器を非常に重視してきています。NATOの拡大やNMD開発が進んでいる状況下、放っておくとこの一方的な撤去が逆行するのではないかと懸念されほど、今危険な状態にあります。米ロの一方的な措置を条約にしてしまうか、新たな規制や制限、削減、撤去を行うかが大きな問題になろうかと思います。西側ではアメリカが航空機配備で、ドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコ、ギリシアに150から200の戦術核兵器を残していたが、一応、撤去したというかたちになっています。

5番目は警戒態勢の解除、つまりde-targetの問題で、これはすぐにとれる措置です。照準解除からde-alert、あるいはde-mate、そして核弾頭と運搬手段を切り離して別々に管理する等、部分的には行われています。しかし、まだ多くのものはalert状態に置かれている状況です。この他にもいろいろあるでしょうが、主な論点としてこういうものが議論されるであろうと思います。

非核兵器地帯については1995年以降、バンコク条約、ペリンダバ条約ができています。これは非常にプラスに評価されています。中央アジアは現在条約を交渉中で、今週の札幌での予定が来週に延びており、なかなか採択までいかないだろうという状況です。モンゴルが昨年か一昨年、一国非核兵器地帯を宣言して、国連総会決議で承認されています。中東と南アジアは1974年あたりからずっと総会決議を出しているが、いまだに全然進展していないし、状況は悪化しています。だから既存条約の発効、議定書の発効、促進ということが最初に言われると思います。アフリカはまだ発効していないし、東南アジアでも議定書の方で若干もめているということがあります。更に北東アジアとか中東に関しても非核地帯をつくるべきではないかと、これは私の個人的意見としてあります。

安全保障(security assurance)に関しては、ポジティブ(積極的)の方は、1968年の安保理決議255から1995年の決議984というのをどのように更に強化していくかということがあります。それからネガティブ(消極的)の方に関しては、中国以外の4ヵ国が95年に行った共通の政治的な約束を、法的に拘束力のあるものにすべきだと非同盟諸国が主張している問題があります。それからアメリカの最近の政策、つまり核兵器を生物・化学兵器(BCW)に対しても使う可能性があります。それが消極的安全保障の約束と矛盾すると言われており、それにどのようにアメリカはこたえていくのか、あるいはこれをどのように利用していくのかということがあります。それから先制不使用というのは中国がずっと言っていますが、他の国は言っていません。ロシアは昔は先制不使用を言っていたけれど、1993年あたりから逆戻りしています。これをどう推し進めていくかということが議論されると思います。

保障措置(safeguards)は、IAEAの保障措置強化で97年に追加モデル議定書というのが採択され、日本ではすでに批准、発効しています。なぜかまだ7、8カ国しか批准しておらず、これをもっと多くの国がすべきだということが言われるでしょう。それから核兵器国への広範なIAEA保障措置の適用ということも主張されるであろうと思います。

平和利用に関しては、輸出管理の透明性を促進すべきだとか安全性をもっと強化すべきだ、あるいは物理的防護をもっと強化すべきだ、原子力施設への攻撃の禁止を明確化すべきだということが議論されるかと思います。

最後に、この会議が成功するかどうかは、会議の内容自体もそうだがそれ以上に周りの国際情勢に左右されます。特に直接的に核に関する国際情勢であり、現在STARTプロセスが停滞しているという状況下、軍縮に関しては非常に悪い方向に行っているわけです。インド、パキスタンが核実験したということは、 NPT体制に対する非常に大きな挑戦であり、これもマイナスの要因です。

アメリカ上院がCTBT批准を拒否したこともマイナス要因です。アメリカのTMD、NMDの開発はアメリカから見ればプラスでしょうが、他の核兵器国が皆反対しているという状況からすると、これもマイナス要因ではないかと思われます。

それからアメリカ、NATOの核ドクトリンが以前と変わっていないという問題があります。むしろ、核の使用が若干強調されたのではないかと言われています。ロシアに関しては、今年の1月の新たなドクトリンで、例えば、チェチェンあたりでの核の使用の可能性をちらつかせるところまで逆戻りしているわけです。

また、ジュネーブの軍縮会議が全然進まない等、ここに並べたのは全部マイナスの要因です。過去5年間のプラスの要因としてまず、CTBTが1996年に署名されたということで、これは大きな前進であります。それから1996年にICJが、核兵器の使用は一般的に国際法に違反するという勧告的意見を出したことです。それからアフリカと東南アジアに非核兵器地帯がつくられたことです。これは最近というよりも1995、6年の話であり、最近の情勢は非常に悪く、会議に関しては悲観的にならざるをえない状況にあります。

もう少し広いところで見てみると、アメリカとロシアの関係が、特にNATOの拡大、NMD、コソボ問題を通して非常に対立しております。プーチンが2、3日前にロシア大統領に選ばれたので、なるべく早く首脳会談を持ち、何らかの合意なり前進が見られればという状況です。

米中関係も、TMD、NMD問題、コソボの中国大使館誤爆、あるいは中国が核技術を盗んでいたとか、いろいろな問題がありまして、これも以前に比べて非常に悪くなっています。これは東京フォーラムと同じような分析です。

それから中東、朝鮮半島、南アジアの情勢、中東も和平プロセスが進みそうで進まず、南アジアも核ドクトリンが出てきて非常に悪くなっているわけです。朝鮮半島が若干よくなっているかという感じですが、ペリー・レポートが実施されていけばいいなといった状況です。

基本的には核兵器国と非核兵器国との関係は、特にアメリカが上院の共和党議員を中心にユニラテラリズムと言うか、ニューアイソレーショニズムの方向に動いているときなので、私自身は若干悲観的な予測をしています。だから文書として将来5年間の活動計画が採択されれば成功と考えた方がいいかもしれません。多分、過去5年間の評価というのは採択されないであろうという予想を立てておりまして、もしかすると将来5年間のも採択されないかもしれません。将来5年の活動計画の方が採択されやすいと思います。もちろんコンセンサスで非常に低いレベルになるかもしれませんが、それが採択されれば成功ではないかと考えています。

5. 黒澤満氏の略歴
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授。原子力委員会専門委員、科学技術庁参与なども務める。主な著書に『現代軍縮国際法』『軍縮国際法の新しい視座:核兵器不拡散体制の研究』『核軍縮と国際法』『軍縮問題入門(第2版)』『核軍縮と国際平和』など。

HPI Research Forum on March 28, 2000

Prospects for the NPT Review Conference

By Mitsuru Kurosawa, Professor at Osaka University

1. Topic
"Prospects for the NPT Review Conference"

2. Date
March 28, 2000 (Tue.), 3:00-5:00p.m.

3. Venue
HPI Conference Room

4. Abstract of lecture
Mitsuru Kurosawa, professor at the Osaka School of International Public Policy, Osaka University, addressed an HPI-sponsored open workshop titled "Prospects and Tasks for the NPT Review Conference" on March 28 prior to the review conference in New York.

Kurosawa began by explaining the characteristics of the Review Conference as stipulated in Article VIII, Paragraph 3 of the NPT, followed by an overview of the progress made between the first conference in 1975 and the fourth conference in 1990. He said the fundamental objective of the review conference is to check the progress of nuclear disarmament and the contents of parties' obligations to ensure that moves toward disarmament stipulated Article VI are made in good faith.

Referring to the previous review conference in 1995, Kurosawa explained that the decision to indefinitely extend the treaty was based on the adoption of two documents, "Strengthening the Review Process of the Treaty" and "Principles and Objectives for Nuclear Non-Proliferation and Disarmament."

Regarding this year's conference, Kurosawa expressed concern over the predicted deadlock in discussions of the Main Committee I, which deals with nuclear non-proliferation and disarmament. He said the entry into force of the Comprehensive Test Ban Treaty (CTBT), the early start of fissile material cut-off (FMTC) negotiations, the progress of START talks between the United States and Russia, unilateral efforts to reduce non-strategic nuclear weapons by the United States and Russia, and the development of nuclear weapons free zones (NWFZ) - all of which were included in "Principles and Objectives" at the 1995 conference - would be included again in this year's final document.

Kurosawa described as "severe" several unresolved issues surrounding the conference, such as the impasse in the START process, nuclear tests by India and Pakistan, the rejection of CTBT ratification by the U.S. Senate, friction between the United States and Russia, and the United States and China.

Afterward, participants, including researchers and graduate students, asked questions about the repercussions for nuclear disarmament of the U.S. Missile Defense plan, Japan's role at the NPT conference, and nuclear development in Israel. "Nuclear non-proliferation itself is not the aim, but only the means toward nuclear disarmament," Kurosawa said.
(By Kazumi Mizumoto, associate professor at HPI)