原爆被害を表現する写真

四條 知恵(准教授)

原爆被害を記録し、伝える手段として、原爆投下直後から「写真」は、遺品や被爆体験証言に並ぶ重要な役割を担ってきた。広島平和記念資料館、長崎原爆資料館に加え、長崎平和推進協会の写真資料調査部会なども、長年にわたり写真を収集している。最近では、中国新聞社がウェブサイト「ヒロシマの空白―被爆前・被爆後のヒロシマを辿る―」で被爆前後の写真による街並みの再現を試み、長崎でも長崎大学核兵器廃絶研究センターと国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館が、被爆前の暮らしを撮影した写真データを集め、ウェブ上で「被爆前の日常アーカイブ」を公開している。このように、写真に関しては、これまで民間も含めて様々な取り組みがなされ、資料/データが蓄積されてきた。

原爆によって失われたかつての街や原爆被害を撮影した写真の一枚一枚が、「事実」を記録し、伝える手段として重要なのは、論を俟たない。しかしながら、原爆投下直後に限らず、戦後77年の間にも土門拳、東松照明、土田ヒロミ、石内都ら幾人もの写真家が、原爆被害を題材に写真を撮り、記録としてのみならず、表現として写真集を編んできた。これらの写真も視覚的に原爆被害を世界に伝えるうえで、重要な役割を果たしている。写真集には高額で刊行部数が少ないものもあり、近年刊行されたものでも手に入りにくいものが少なからずある。このため、積極的に収集しなければ資料群を構築することは難しいが、長崎分も視野にこれらの写真集や写真家にまつわる刊行物を積極的に収集している機関は、広島にはない。 そこで、2022年度の広島市立大学の特色研究「写真による原爆被害の集合的記憶の形成」の一環として、原爆被害を題材とした写真集を中心とする写真関連刊行物を収集・整理し、見出しなどの書誌情報の入力を行った。収集した図書・雑誌は、寄贈および書店・古本屋からの購入を合わせ、295点(2023年6月30日現在)に上る。なかでも広島の戦後史を専門とする宇吹暁氏に寄贈頂いた資料には、希少なものが含まれる。両被爆地に関わる写真関連刊行物を集めた本資料群は、地域資料にとどまらず、写真と原爆被害、戦争被害の関係を考えるうえで、貴重なものといえる。引き続き、資料の収集を進めるとともに、書誌情報をデータ化し、原爆被害と写真の関係を多角的に考える足掛かりとして、広く興味を持つ人々に公開することができればと考えている。

収集した資料の一部