グローバル・ガヴァナンス・システムとは?――21世紀の国際秩序をマルチセクターの協働で作るビジョン

大芝 亮(所長)

*この記事は、広島平和研究所ブックレット第7号に掲載されたものです。
ここでは、その一部をご紹介しております。

1 はじめに

国際政治に対する伝統的な見方(現実主義)では、国際政治の主役は国家であり、国家は国益の拡大を図るものである。そのための手段として国力があり、国力のなかでもっとも国益の拡大に寄与するものは軍事力である。要するに、国際政治は国家、特に軍事大国により運営されていると理解される。

しかし、近年、国家以外のアクターの活躍がめざましい。国連や世界銀行をはじめとする国際機関、経済・情報分野で圧倒的な影響力をもつ世界企業、市民の力を結集したNGOなどが国際政治の動向に多様なインパクトを及ぼすようになっているといわれる。このような見方は、国際関係論では、現実主義(リアリズム)に対して、リベラリズムと呼ばれる。

リベラリズムの理論では、国家や非国家が多様な利害を調整し、協調的な行動を継続していく仕組みのことをグローバル・ガヴァナンス・システムと呼ぶ。国家やさまざまな非国家アクターは、それぞれに多様な価値観や利害関係を有しているが、果たして相互にそれらを調整し、協力していけるのだろうか。グローバル・ガヴァナンス・システムというのは、現実に機能しうる仕組みなのだろうか。この点を、理論的に、そして現実世界での事例に照らして考察することが、この講座でのお話の目的である。あわせて、グローバル・ガヴァナンス・システムの考え方、より広くはリベラリズム的な「国際政治を見る目」に対して、昨今の国際政治状況はいかなる課題を提供しているかについても考えたい。

2 グローバル・ガヴァナンス・システムにおけるガヴァナンスの定義

冷戦後に、二一世紀の国際秩序のあり方をグローバル・ガヴァナンス・システムという名のビジョンとして打ち上げたグローバル・ガバナンス委員会は、その報告書(『地球リーダーシップ』)において、ガヴァナンスを次のように定義する。

「ガバナンスというのは、個人と機関、私と公とが、共通の問題に取り組む多くの方法の集まりである。相反する、あるいは多様な利害関係の調整をしたり、協力的な行動をとる継続的プロセスのことである」(グローバル・ガバナンス委員会1995: 28)。

「個人と機関」として、国家のみならずさまざまな非国家アクターが国際政治に参加し、「私と公」ということばで、公共(パブリック)の問題に公私の多様なアクターが取り組む仕組み(マルチセクターの協働)を想定している。さらに、「共通の問題」と述べ、共通の問題があるという認識が共有されていることを前提とし、「利害関係の調整」を「継続的」に行っている仕組みを築くことをビジョンとして掲げている。

かつては公共の問題は国家(官)が行うものとされてきた。パブリックとはオフィシャルだという考え方である。たしかに最近では、パブリックな問題について、NGO等が加わる機会も増えた。しかし、NGOはどのような資格で公共の問題に関わっているのか、という疑問が繰り返し投げかけられた。NGOの正統性への疑問が提示されたのである。グローバル・ガヴァナンス論は、「私と公」をガヴァナンスの概念に組み込むことで、NGO等が公共をめぐる政策決定へ参加することを正統なものとした。

一見、このような世界運営の仕組みを構想することは当たり前のように思える。しかし、これと反対の考え方を取る人も少なくない。すなわち、第一に、国際政治は国家中心、特に大国中心で運営される、第二に、国際政治では国家の安全保障は基本的に軍事力に頼るしかない、第三に、さまざまな問題はあるが、もっとも優先順位の高いのは国家の安全保障の確保という考え方も根強く残っているのである。

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